前回までの話↓↓

第1話 脱サラ直後の話①

第2話 脱サラ直後の話②

第3話 脱サラ直後の話③

第4話 脱サラ直後の話④

第5話 脱サラ直後の話⑤

第6話 脱サラ直後の話⑥

第7話 脱サラ直後の話⑦

第8話 脱サラ直後の話⑧

以下、本編。

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満喫を出た後、俺はもう一度栄に戻ることにした。

全財産残り3,000円と少し。

 

当然、電車は使わない。

いや、使えない。

徒歩で、金山からもう一度栄に向かった。

 

栄に、僅かながら心当たりがあった事を思い出したからだ。

以前、サラリーマンをしていた頃。

少しばかり名古屋に住んでいた事があった。

その頃、地元同高の同級生が名古屋に住んでおり、その人物から紹介されたバーが栄5丁目付近にあったのだ。

一縷の望みを託し、俺はそのバーに向かった。

僅かな記憶を頼りに、栄5丁目付近で目的のバーを探す。

雑居ビルの2階という記憶だけはあった。

中日ビルの裏辺りを歩いている時、たまたま目に入った看板を見て俺は立ち止まった。

ここだ。

 

丁度そのバーは、マスターがオープンの準備をしている頃だった。

トシさん。

 

俺がそう呼ぶと、マスターが振り向いた。

あれ、確かリョウくんじゃない?久々だね〜、取りあえず中に入りなよ。

 

幸いマスターも俺の事を覚えていてくれた。

奇跡だ。

俺はお言葉に甘え、店内に入った。

そして、ここ数日間の経緯、事情を説明した。

手持ちが残り3,000円と少しだという事、何日間もまともに寝ていないという事。

色々、説明した。

そしたらなんと、マスターのご高配で一晩店内で過ごしてくれて良いという事になった。

朝方店仕舞いしたら、ソファ席で寝ていけば良いよ、と。

お代はお酒一杯分だけで良いよ、と。

ここでも俺は奇跡に恵まれる事ができた。

気持ちを切り替え、自ら運命と向き合う事でここまで引き寄る事が出来るのか、と。

だが、本当の奇跡が起きるのはここからだった。

 

続く。