鞄一個で京都から名古屋へ、着く頃には所持金は4,000円に。

名古屋には殆ど知り合いも居ない。

母方の実家は岐阜にあるが、数年前に勘当されたきり連絡も取っていない。

父親は生まれた時から居ない。

銀行のATMには残金1,000円以下、つまり硬貨対応の機種じゃないとお金を降ろす事もできない。

さてどうしたものか。

こういうの漫画とかテレビドラマではよくある設定。

超が付くほどの貧乏人が大成功していく話。

学歴も無い、人脈も無い、お金も無い、そんな貧乏人のサクセスストーリー。

ありきたりな設定だが、漫画やテレビドラマの世界ならよくある話。

でも、これは現実。

 

漫画なら良い、楽しみながら第三者目線で読めば良い。

テレビドラマだってそうだ。

人は自分に無いものを求めたがる、非現実的な世界にこそ興味を引かれる。

そこにリスクが伴わないから、漫画やテレビドラマを笑って観ていられる。

でも、学歴が無いのも、人脈が無いのも、お金が無いのもこれ全て現実。

俺自身の話。

全く笑えない。

 

極め付けが全財産4,000円。

漫画ならギリギリのタイミングで助けてくれる人が登場したりする。

けど、現実的にそんなことに期待するのはほぼ絶望的。

第一、知り合いも殆ど居ない名古屋で助けてくれる人に巡り会うことなんてあるはずがない。

俺は絶望した。

途方に暮れ、行く宛も無いまま気づいたら名古屋駅と栄の間を徒歩で何往復もしていた。

携帯の充電も残り僅か。

何をどうしたら良いのか?取っ掛かりすら掴めない。

まるで凹凸の無い平らな側面をボルダリングで登れと言わんばかりに。

気付いたら日も暮れていた。

その日は週末だったのだろうか。

繁華街の中だけあって、周りには嬌声がこだましていた。

まるで俺のこの状況を嘲笑うかのように、周囲の笑い声が疎ましく感じた…。

続く。