前回までの話↓↓

第1話 脱サラ直後の話①

第2話 脱サラ直後の話②

第3話 脱サラ直後の話③

第4話 脱サラ直後の話④

第5話 脱サラ直後の話⑤

第6話 脱サラ直後の話⑥

以下、本編。

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デニーズを出てからどれくらい経っただろう。

いや、時間にしたらたかが知れている。

だが体力を消耗し、憔悴しきった俺にはそれは何時間にも感じた。

気がづくと、俺はJR金山駅の前に立っていた。

栄から金山まで、歩いてきたのだ。

底がすり減った靴で…。

足の裏がジンジンする、腰も痛い。

もう限界だ。

 

風呂も丸二日入っていない。

シャワーを浴びたい。

出来れば、湯船に浸かってゆっくりしたい。

許されるなら、ふかふかのベッドで気の行くまでゆっくりと眠りに就きたい。

…。

だが、そんな事は当時の俺には夢物語だった。

全財産3,600円と少し。

贅沢は言ってられない。

明日の命すら保障できない状況。

でもせめて、シャワーだけでも浴びたい。

明日の命より、今この瞬間、身体を、気持ちをスッキリさせたい。

そう思った俺の目の前に、マンボウという漫画喫茶が現れた。

中にはシャワー設備があるとの記載もあった。

基本料金ALLはじめの1時間450円。

 

当時の俺にとっては大金だ。

450円あれば、下手したら3日間は食事に困らない。

だが、とにかくシャワーを浴びたかった。

当然着替えもない。

シャワーを浴びたところで、また汚れた服を着たら同じ事じゃないか。

でも、だけど、どうしても俺はシャワーを浴びたかった。

全身臭かった。

 

俺は無心で店内に入ると、即シャワーブース利用の予約をしてボックス席に入った。

数日ぶりの個室空間。

たかだか1畳にも満たない、その空間が楽園に感じられた。

少しほっとしたのか、急激な眠気に襲われた。

だが、ここで寝てはシャワーを浴びる事が出来ない。

ここは我慢だ。

プルルルルルル。

 

インターフォンがなり、シャワーの順番が回って来たと伝えられた。

人生でこれほど、シャワーの順番を渇望した事があっただろうか。

半畳にも満たない小さなシャワーブース。

俺は頭からシャワーを浴び、この数日間の汚れを洗い落とした。

今でもこの時の爽快感を覚えている。

シャワー一つで、これほど幸せを感じる事ができるとは…。

熱々のシャワーを全身に浴びながら、俺は心の中に微かに湧き上がる活力を感じていた。

続く。