”森井”から渡された架電リストに目を通す俺…、そこには事細かな個人情報が記載してあった。
架電リストに目を通して、びっくり。
名前、電話番号は勿論のこと、住所、家族構成、子どもの年齢、通っている学校名、塾名、各家族の帰宅時間に至るまで事細かな個人情報が記載してあった。
当時、今ほど個人情報にうるさくない時代、ギリギリコンプライアンスに引っかからない程度の個人情報を収集するプロの”名簿屋”と呼ばれる職業の人たちがいた。
テレアポ会社、訪問販売会社は皆そういったプロの”名簿屋”に依頼してターゲットとなる家庭の情報を得ていた。
勿論、KEIもそうだ。
俺は渡されたトークスクリプトに一通り目を通すと、数回声に出し復唱した後、人生初となる営業電話をかけはじめた。
ドク、ドク、ドク…。
心臓の音が聞こえてきそうなくらい、緊張し、受話器を持つ手が硬直していた。
不慣れなビジネスフォンで、恐る恐るダイヤルを回す。
プルルルルルル…ガチャッ。
『あ、もしもし、こちらKEIのイズミと申しますが、今回お電話させていただいたのは…』
『結構です』ガチャっ!
人生初、営業電話の”ガチャ切り”。
テレアポを経験した事がある人は分かるだろうが、これが慣れるまで大変。
顔も見えない相手から”結構です”と言われると、何故だか自分自身の存在自体を否定されているかのような感覚に一瞬陥る。
後に、バリバリの営業会社でトップセールスとなった俺でさえ、一番最初は営業の初心者だった。
そりゃガチャ切りも何度もされた。
イライラもしたし、悲しくもなったし、落ち込みもした。
ここまでは、皆と一緒だ。
だが俺が違ったのは、その向き合い方…というか反骨心(?)。
というか断る客=敵!みたいな訳の分からない捉え方。笑
そしてそれは、一番最初のこの第一コールとて例外では無い。
『なんだ!?このクソ○バア!!人が話してんのに電話切りやがって。ゼッテー売ってやる!』
と、心の中で叫んだ。
声こそ出してはいなかったが、表情が変わったのだろう。
野村が少しびっくりした表情で一瞬俺を見た。
きっと、人生初の”ガチャ切り”で心のスイッチが入ったのだ。
そしてここから、営業マンとしての”とてつもなく熱い”怒涛の人生が始まった。
続く。