『もしもーし、私KEIの○○と申しますがあー・・・』『もしもし、僕KEIの・・・』

 

扉を開けてビックリ。

目の前には屈強な男たちが数名、肩を埋めるように四畳半ほどのスペースの中にいた。

そして、みんな受話器を持ち、いっせいに電話をかけていたのだ。

俺はその光景に、一瞬言葉を失った。

なんだこりゃ?

女子高生どころか、目の前には刺青剥き出しの怖そうなお兄さんたちまで居た。

 

呆気に取られていると、野村がみんなが受話器を置き終えるタイミングを見計らって声を張った。

『ほな、一旦電話やめてなー、今日体験で入ってくれる事になったイズミくんや。森井くん、ちょっとやり方をイズミくんに教えたって欲しいねんか。』

 

”森井”と呼ばれた男が振り向いた。

30代中盤、野村と年は大差なさそうだ。

タンクトップからは筋肉隆々の両腕が伸びており、片腕には観音様の和彫が入っていた。

『宜しくな、森井や。』

 

そう言って、森井は俺に仕事内容を教えてくれた。

やるべき事としては、手元にある各家庭の名簿、つまり架電リストに対し学習教材の案内電話をして訪問のアポイントを取る。

そして、アポインター(俺のこと)が切ったアポイントを先輩が再度家電。

本当にニーズがあるアポイントなのか?アポキャン(アポイントのキャンセル)が出ないか?の再確認、通称”しぼり”を行い確定したアポイントに営業マンが訪問するという流れだった。

仕事内容を一通り教え終わると、森井は俺に”トークスクリプト”と呼ばれる、家電時の台詞が書かれた1枚の紙を渡してきた。

『取り敢えず最初はそれ見て電話してくれたら良いから、で、慣れたら徐々に自分の言葉で話すようにな』

そう言うと、森井は自分の仕事に戻ったのだった。

『ほな、取り敢えずイズミくん電話かけてみよか!』

野村はそう言って、俺に1枚の架電リストを渡した。

そしてこれが、今後の人生を大きく変える”営業”との出会いになった。

 

続く。