室長の山田から聞き馴れない”ロープレ”という言葉を耳にした俺。

会議室のドアが開き、外から件の事務員が入ってきた。

”水木”と呼ばれたその事務員が俺の前に立つ。

今から水木にお客さん役になってもらい、イズミくんに営業マンとして商品を売り込んでもらう。

 

山田が主旨を説明する。

そう、ロープレとは”営業ロールプレイング”のことで、

営業マン役、お客さん役を双方が演じて営業力向上に努めるトレーニングの事だった。

一度、山田が営業マン、水木がお客さん役を演じお手本を見せ、俺の番が来た。

見よう見まねで営業マンを演じる俺。

ダメやダメや!そんなんでは売れへんで!!

 

営業マンがお客さんに相対する際の立ち位置から、身振りの位置関係、目線の方向、話すトーンやテンポ、声の抑揚に至るまで。

事細かく山田のレクチャーは続いた。

後に知る事だが、山田はとある業界で知る人ぞ知るトップセールスだったそうだ。

道理で、今顧みても指摘が適切なわけだ。

山田に都度指摘をされながら、何回も、何回もロープレを繰り返した。

そして気づけば、午前中の稼働が終わっていた。

ええか?午後もう少しだけ練習したらロープレのテストや!それを合格せーへんかったら現場には出されへんからな!

 

山田が語気を強めて言う。

俺は思わず息を呑み、昼食を取る為に会議室を後にした。

続く。