午後。昼食から戻ると、室長の山田がお客さん役、俺が営業マン役で営業ロープレのテストが始まった。
切り返しトークが頭に浮かんでも、円滑に”言葉として”口から出てこない。
出て来たとしても、トークスクリプト棒読みで”自分の言葉”になっていなかった。
結果、挙動が”不自然”となる。
営業として、その不自然さが命取りとなる事はテレアポの経験から分かっていた。
相対するお客さんに、断り文句を言われる隙を作ることに繋がるからだ。
ロープレですらこの出来…当然現場で通じる訳がなかった。
不合格やな。
山田が一言。
予期していたとはいえ、今までこういった類のテストで及第点を取り損ねた事が無い俺には堪えた。
果てしない挫折感に襲われたのだ。
自己肯定感など何処へやら。
すっかり落ち込んでしまった。
これでもう現場には出られないのか？
そんな俺の態度を見兼ねたのか、山田が言った。
しゃーない、もう一回だけテスト再チャレンジや。
俺は武士の情けをで、再度営業ロープレのテストを受けた。
今度は自分の言葉で切り返しトークを返す事が出来、ようやく山田から及第点を貰えた。
外はすっかり日が暮れて夜になっていた。
会議室の窓からはちょうど下弦になった半月が見えた。
ほな、明日から現場に出てもらうで！ロープレで出遅れた分、しっかり現場で結果出してもらわんとな！
山田に焚き付けられ、俺は気合いを入れた。
明日は直行、つまり事務所に寄らずそのまま現場に行くとの事だった。
待ち合わせ場所は”浜大津”、滋賀県大津市の私鉄の主要駅だ。
そこでキーリングの営業主任であり、今後の直上司となる”森”と合流する事になっていた。
いよいよ初営業現場。
俺の胸は高鳴っていた。
続く。
