キーリングの営業メンバーとなって約1ヶ月が過ぎようとしていた。

 

大学を退学する予定だった俺はアルバイトながら週6で朝から晩まで現場に出ていた。

稼働2日目のコミット2件も無事クリアした俺は、それからこの1ヶ月間一度もボーズになる事無く現場に出ていた。

完全に現場営業にはまっていたのだ。

コミットをクリアした時の達成感、そして更なる高みへ登らんとする同僚達との切磋琢磨。

それがこの上なく居心地が良かった。

一体感と言うのだろうか。

現に、キーリングはとても風通しも良く、良い意味で自由な会社だった。

出勤時間や一応の退勤時間(希望すれば特商法の範疇で何時まででも許して貰えた)は決められているものの、

コミットさえ達成すれば基本的には何をしていても咎められなかった。

休憩時間を長く取っても、仮にその間に床屋に行ったとしても。

結果だけ出していれば何も文句を言われない。

 

そんな環境が肌にあったのだろう。

当時の俺は水を得た魚のように生き生きしていた。

岐阜の山奥、狭い世界でルールに縛られていた学生時代とは正反対。

京都市内一円が俺のフィールド…。

ここで、俺は次のステージに行くんだ。

 

そんな気持ちで毎日を過ごしていた。

また、営業未経験ながら入社後一度もボーズをこかない俺に先輩営業マンたちも注目をしてくれていた。

専務も主任も、良い風が入ったと喜んでくれている。

そして当時、同時にお互いを意識して(というか周りから意識させられて)、

営業数字を競っている同年代の同僚が2人いた。

一人は同い年のヨースケ。

もう一人は、1個上のカイジ君だった。

競っていると言っても、バチバチに…という訳では無く、基本的に仲は良かった。

仕事が終わったら街に出てナンパでもしよーや!

いーで!ほな今日の営業数字勝った方が美人の方やで!

そんな会話をよくしていた。

ヨースケは痩身だが筋肉質な体をしており、地下格闘技の選手をしてたりした。

おまけに甘いマスクで女にもモテる。

営業だけは負けたくねーな。

そう思っていた。

何よりヨースケもカイジ君も、営業が滅法強い。

特にカイジ君は、過去にトップセールスを何回も獲得した事があるくらいのポテンシャルを持っていた。

そんな刺激的な毎日を送る中で、俺は営業という仕事にも、そして京都という街にもどんどん魅了されていったのだった。

続く。