目の前にはイカツイおっちゃん。

看板には○○金融とある。

もしかして、ヤ○金??

 

そんな嫌な予感がしたが、背に腹は変えられない。

今では本当にそっち系なのであればNG業種として獲得してはいけない、だが当時はそこまでのコンプライアンスは無かった。

N○Tテレポケット・キーリングのイズミと申しますがー…。

俺は気合いを振り絞って、回線の営業を始めた。

そして暫く話をすると、既にFTTHを使っている事が判明。

ある意味ホッとした俺は、そそくさとその場を後にして次の部屋をピンポンしていった。

だが結果的にこのマンションでは見込客どころか殆ど人に会えなかった。

考えてみれば、夕方過ぎといったら丁度終業時間。

今から帰路に着く時間な訳で、しかも単身者がそのまま真っ直ぐ家に帰ることは考えにくい。

俺はその単身アパートを後にして、一番最初に森主任と回ったファミリーマンションに戻った。

そして意を決してまだ履歴が無い部屋番号をピンポンしていった。

あ、多分まだADSLだと思います。

 

とある部屋の主がそう言った。

俺は千載一遇のチャンスだと思い、絶対逃すまいと必死に話をした。

すると…。

ガチャン

 

自動ドアが開いた。

俺は急いでエントランスを潜り、部屋の前で再度インターフォンを押した。

中から主婦と思われる中年女性が出てきた。

念の為モデムも確認すると、そこにはYahoo!の文字が。

ADSLで間違い無い、しかも料金が高い方のプランだった。

FTTHに切り替えれば値段も1,000円近く下がり、しかもスピードは倍になる!

そのメリットを伝えると相手も快諾してくれた。

オーダーを初日から取ることができた。

 

すぐさま森主任に報告すると、主任も凄く喜んでくれた。

この達成感が堪らない。

営業の醍醐味は契約を取った時の達成感。

これは人生で初めて自己アポ自己営業のオーダーを取ったこの時から、今の今まで全く変わらない価値観だ。

最低限のノルマをクリアした。

会社に雇われて給料をもらっている以上、結果を出さないのは絶対ダメだ。

 

俺は安堵感と共に、帰社した。

直帰では無く、個人情報の保護と契約書を提出する為にしっかり帰社するのだ。

会社に帰ると、そこにはまだ会ったことが無い面々がいた。

おお、お前がイズミけ?やったやんけ!初オーダーおめでとう!

 

満面の笑みを浮かべて、40歳前後の逞しい中年男性が俺に声をかけてきた。

専務の刈田や。

その男性は専務と名乗った。

続く。